いつの時代も「住宅業界は遅れている」という厳しい声を耳にすることがあります。10年、20年前も同じように「遅れている」という声が上がっていたはず。
としますと、いつまで経っても住宅業界は他の業界と比べて遅れていることになります。
このような声は住宅業界の方々にとって、耳が痛い話ではないでしょうか?
これは、製造業の世界では有り得ないことです。
例えば、10年前の自動車と今を比べると、明らかな違いと進化が見られます。デジタル機器や生活家電製品は10年前と今では、随分違います。身近な今のスマホは10年前と比べて、隔世の感があります。
なぜ、いつまで経っても住宅業界は遅れているという声が上がるのか?その理由を深掘りしてみます。
なお、当記事は管理人の住人目線、消費者目線の考えであって、業界の建築士や建築家の考えではないことをご理解ください。
なぜ住宅業界は遅れていると言われる?
家は大量生産できない
住宅と工業製品の決定的な違いとして、住宅は工場でポンポンと大量生産できません。
例外として、セキスイハイムのようなユニット工法は、工場で鉄骨ユニットを量産し、外壁と床、天井、断熱材、住宅設備、電気配線、給排水設備などを組み込む工法。トラックに完成したユニットを積載し、現場で積み木のように積み上げるセキスイハイム独自の工法は、工業製品的な物づくりの手法を取り入れています。
ただ、セキスイハイムのような工法は住宅業界の中で特殊な工法であり、その他の住宅ビルダーは現場で施工します。
家を建てる土地の場所、面積、形状、接する道路、周囲の隣家との関係は全て異なります。家は建築基準法の下、その土地とお施主様の希望に合わせて設計、施工されます。
家は様々な職人と専門家が現場に集まり、物づくりをして完成する建築物。家はオーダーメイド製品です。
まさか、巨大な工場で1棟まるまる作り、ヘリコプターで家を吊り上げて現場まで運ぶわけにはいかないのです。
家は1棟1棟、設計が異なり、手作りで作り上げる建築物。家は工場で大量生産できるようなものではないため、どうしても進化がゆっくりにならざるを得ないと考えることができます。
オーダーメイド製品の弱点
品質のばらつき
オーダーメイド製品は1品物。世界で1つしかない製品です。
お客さんから受注後、職人は手づくりで物を作り上げます。手づくり品はハンドメイドならではの味わいと良さがあります。
しかし、無視できないデメリットもあります。それは、オーダーメイド製品は高い品質を担保するのが難しくなります。職人が1品1品、設計が異なる物を作る以上、どうしても品質のばらつきが生じます。
増してや、家は建築物であり、各分野の職人による協業で作り上げるもの。家づくりは現場施工が基本である以上、施工不良などの品質のばらつき問題と背中合わせという宿命を抱えているのです。
購入頻度が少ない
家づくりは一生に一度の大きな仕事。中には、今の家を解体して建て替える人がいるものの、人生の中で家の購入頻度は極端に少ないのです。
これは、家を作るビルダーにとって不利な方向に作用します。
フィードバックが早い自動車業界
自動車を例に挙げますと、自動車は4~7年毎にフルモデルチェンジを繰り返す工業製品。そして、その間、自動車はマイナーチェンジを受けます。
【ユーザー’s ボイス】
自動車は家に比べると買い替え頻度が多い製品。お客さんは車を買い替えた後、何らかの不満を抱くことがあります。今まで乗ってきた車と購入した車を比較して、違いがよく分かるのです。
よって、ユーザーからディーラーや自動車メーカーに様々な意見が寄せられます。
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【現状分析】
ユーザーの意見が自動車メーカーのエンジニアに伝わり、その自動車の設計の問題点が分析されます。
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【フィードバック】
マイナーチェンジや次のフルモデルチェンジで自動車設計の諸問題が見直され、改良されます。
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【インタラクティブ】
以降、繰り返し。
自動車は家と比べて、以上のサイクルが短いのが理由となり、自動車という工業製品はどんどん改良されて進化していきます。
もちろん、自動車メーカーは時代のトレンドや国土交通省との関係もあり、車づくりの考え方や安全対策、環境対策の基準が変わっていきます。
フィードバックが遅くなる住宅業界
お施主様が新築の家に入居後、この世に100%の家は存在しない以上、何らかの不満を抱くものです。住人は打ち合わせの時の設計図やCADでは見えなかった事柄に直面するのです。
その不満内容によっては、家を建てたビルダーに相談し、あるいは、外構工事業者やインテリア業者に相談することもあるでしょう。
そして、ビルダーはお施主様から上がってきた声を参考に、次の家づくりにフィードバックします。
住人は家のメンテナンスしながら10年、20年、30年と生活していくと「あばたもえくぼ」となり、住めば都となっていきます。つまるところ、新築したお施主様の声がビルダーに寄せられる回数が少ないのが住宅業界の本質なのです。
このように、住宅業界は自動車業界と比べて、お施主様から上がってくる声の絶対量と頻度が少ないのです。これが理由となり、家は自動車と比べて、どうしても進化のスピードがゆっくりにならざるを得ないのではないでしょうか。
長寿命
家は自動車とは異なり、不動産であり、長寿命な建築物。
自動車の故障が少なくなり、日本国内の平均車齢は年々、伸びています。
それでも、自動車は機械と電子部品、金属の集合体である以上、10年10万km前後でトラブルが出てきます。それを契機に、オーナーは車の買い替えを検討します。
その点、家は長期の住宅ローンを組んで購入するもので、10年前後で建て替えていくものではありません。
そもそも、家は自動車と比べて、物理的な劣化が遅い不動産。家は長寿命である以上、購入頻度が少ない商品であり、先ほどの内容のとおりでフィードバックがどうしても遅くなるのではないでしょうか。
国の住宅基準が遅れている
高気密高断熱住宅が増加傾向にあるものの、日本には小規模住宅の「断熱」に関する法的な基準が存在しません。
注目を集めていた2020年、省エネ基準適合義務化は見送られました。結果として、家の設計請負契約時、ビルダーはお施主様に対して省エネ性能の説明を義務付けることにとどまったのです。
このような背景もあり、日本の家の「断熱」基準が無いため、冬の家の暖かさはビルダー次第なのです。更に、家の「気密性」基準も存在しません。
よって、日本の建築基準法をクリアしている家ならば、無断熱ですき間風が「ヒューヒュー」入ってくる家でも合法なのです。
もし、暖房も冷房もろくに効かず、すき間風が室内に「ヒューヒュー」入ってくる自動車が存在するならば、お客さんは「何これ?」と不満を抱き、自動車メーカーのお客様相談センターに苦情が殺到します。
住宅業界以外の人にとって信じられないものの、これは真実なのです。
他方、欧州やアメリカの場合、国や州によって部屋の最低温度基準が定められています。これは、アパートにも適合されます。海外の先進国では、一定以上の断熱性が無い家を建てることができないのです。
日本の家に関する建築法規は先進諸国と比べて緩く、遅れていれている以上、日本の家の性能はビルダー次第なのです。
まとめ
・家は現場施工で作り上げる建築物のため、技術の進化がゆっくりになりがち。
・家の購入頻度が極端に少なく、住人からビルダーへ上がってくる不満の声の絶対量と頻度が少ない。
・家は長寿命な不動産であり、進化のスピードがゆっくりになりがち。
・日本の住宅基準は先進国の中で明らかに遅れている。
これらが根源的な原因となり、家の進化は工場で大量生産できる工業製品と比べて、どうしても遅くならざるを得ないのではないでしょうか。
スーパー工務店の存在
では、日本国内のビルダーが建てる家はどれもこれも遅れているのかというと、そうではありません。
中には、先鋭的な設計と施工技術にこだわりのある地場工務店が大手ハウスメーカーを遥かに凌ぐ家を建てています。
スーパー工務店とも呼ばれている業者は独自基準を設け、卓越したUA値とC値を持つ家を建てています。もちろん、日射熱取得率を緻密に計算したパッシブ設計の家であるのは言うまでもありません。
日本国内の緩い法的基準に甘んじることなく、より夏は涼しく、冬は暖かい家を「是」とする真摯なスーパー工務店が日本の快適な将来の家を担っていくのではと思われます。
家の暑さ、寒さはフィルムで対策
1990年代までに建てられた一戸建て住宅とマンションのほとんどには「単板ガラス+アルミサッシ」が設置されています。
この手のサッシと窓は断熱性能に劣り、特に冬の室内の寒さが体にこたえるもの。冬季、「単板ガラス+アルミサッシ」に顔を近づけると、明らかな冷気を感じます。
冷気が窓ガラスを冷やし、室内を冷やします。同時に、暖房器具で暖められた室内の熱(遠赤外線)が窓から外へ流出しています。
これにより、暖房器具の暖房効率も悪化します。
対策として、ガラスフィルムの中で「遮熱断熱フィルム」を窓に施工します。
これにより、窓の断熱性能が向上し、部屋がより暖かく暖房効率が向上します。そして、夏季はフィルムが日射熱をカットし、室内がより涼しくエアコン効率が向上します。
なお、マンションの夏の暑さ対策として、「遮熱フィルム」を施工する場合もあります。
詳細は関連記事をご参照ください。
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