一戸建て住宅の吹き抜け空間に憧れる人は少なくないようです。各ハウスメーカーが集結する住宅展示場の中には、明るく開放的な吹き抜け空間が印象的なモデルハウスを見かけることがあります。
そのようなモデルハウスに1歩足を踏み入れると、誰もが天井を見上げてしまい、あたかも映画のワンシーンのような豪華さに圧倒されてしまいます。
誰もが大きく開放的な空間を目の当たりにすると、好印象を抱きます。
しかし、一戸建て住宅の吹き抜けはあくまで居住空間のため、商業ビルなどでよく見かける吹き抜け空間とは異なる空間。
一戸建て住宅に吹き抜け空間を作ると、設計と施工によってはメリットよりデメリットの方が気になる場合もあります。
では、吹き抜け空間のある家のメリットとデメリット、そして、デメリットを補う対策について解説します。
吹き抜けのメリット&デメリット
メリット
・天井が高く開放感がある
・空間が広くプレミアム感がある
・窓からの採光により室内が明るくなる
・高気密高断熱の家でエアコンの台数を減らすことができる
・1Fと2Fの一体感が出る
・家族とのコミュニケーションが取りやすい
デメリット
・設計によっては夏は暑く、冬は寒い空間になりやすい
・設計によっては光熱費が高くなりやすい
・メンテナンスが大変で費用がかかる
・音とニオイが家中に伝わりやすい
・2F床面積の減少
・耐震性の低下(耐震等級3が必須)
吹き抜け窓のある家のメリット&デメリットを考察
メリットを考察
・天井が高く開放感がある
南に面した吹き抜け空間のあるリビングに一歩足を踏み入れると、誰もが開放的な印象を受けます。
・空間が広くプレミアム感がある
空間が広いほど、人はプレミアムな印象を受けます。
・窓からの採光により室内が明るくなる
吹き抜け空間のあるリビングの1Fから2Fにかけて窓を設置するため、明るい空間が広がります。
北面道路の土地に家を建てる場合、南側に吹き抜け空間を作ることで室内が明るくなります。
・高気密高断熱の家でエアコンの台数を減らすことができる
吹き抜け空間のある高気密高断熱住宅はエアコンで家全体を空調するため、エアコンの設置台数を減らすことができます。
・1Fと2Fの一体感が出る
1Fと2Fが大きな空間で繋がり、一体感が出ます。
・家族とのコミュニケーションが取りやすい
1Fと2Fの一体感が家族同士のコミュニケーションを密にします。
デメリットを考察
・設計によっては夏は暑く、冬は寒い空間になりやすい
南に面した吹き抜け空間のあるリビングには通常、面積が広い窓を設置します。
【夏】
家に適切な長さの軒(のき)を出すことで、2Fの窓の日射遮蔽が可能になります。しかし、1Fの窓から日射熱が室内に流入するため、日射遮蔽対策が必要となります。
軒が無い設計の場合、2Fと1Fの窓から眩しく暑い日射熱が室内に流入します。このようなリビングの窓にカーテンやロールカーテン、ブラインドなどを設置しても、夏は暑い空間と化します。
よって、エアコン効率が低下します。
【冬】
吹き抜け空間のあるリビングに大きな窓を設置する以上、断熱性能が低下し、冬は空間が寒くなる傾向があります。
2Fの窓の断熱性能が低いと、コールドドラフト現象が発生します。よって、1Fの床付近が寒く、冷えを感じる場合があります。
吹き抜け空間の寒さ対策、暖房対策として、1Fでオイルヒーターなどの安全性が高い暖房器具を使用する方法はあります。
しかし、オイルヒーターは1,000W前後の電気を消費するため、ランニングコストの面で不利になります。
・設計によっては、光熱費が高くなりやすい
夏は暑く、冬は寒くなりがちな吹き抜け空間を空調するため、夏と冬の電気代が上昇します。
・メンテナンスが大変、費用がかかる
吹き抜け空間の2Fに設置されている窓の日常的な掃除は不可能。よって、窓と窓枠にホコリやクモの巣、蚊、ハエなどがが堆積しやすくなります。
建物によっては、高所に設置されている2Fの窓の掃除が不可能のため、業者に依頼する必要があります。
■窓の掃除対策
吹き抜けの2F窓部分に幅600mmほどのキャットウォークを設置し、窓ガラスのメンテナンスを可能としている家があります。
なお、吹き抜け空間の天井に設置されているLED照明やシーリングファンのメンテナンスは業者に依頼する必要があります。
■住宅設備のメンテナンス対策
天井に照明用電動昇降機を設置すれば、吹き抜け空間の照明のメンテナンスが容易になります。
・音とニオイが家中に伝わりやすい
リビングのテレビの音が家中に広がり、2Fで音が気になることがあります。また、キッチンで料理する以上、レンジフードをONにしても、ニオイはどうしても家中に広がります。
・2Fの床面積が減少
当然、建物に吹き抜け空間を作る以上、2Fの床面積が減少します。
・耐震性の低下(耐震等級3が必須)
吹き抜け空間は家にとって巨大な穴。最適化設計で耐震等級を十分考慮しないと、地震に弱い家となります。
吹き抜け空間のある家の4つの条件
商業ビルや商業施設の吹き抜け空間は圧倒的な開放感があり、豪華な雰囲気が漂っています。
しかし、その印象をそのまま住宅に持ち込んで再現しようとすると、吹き抜け空間の中で諸問題に直面する場合があります。
当ブログの管理人が読んだ書籍の中で、温熱環境に十分配慮している一級建築士の方が執筆した複数の書籍を参考にして、要点をまとめてみました。
吹き抜け空間のある家を作るためには、次の4つの条件が必要であることが見えてきます。
【1】高い断熱性能
【2】高い気密性能
【3】1F床の暖房システム
+
【4】耐震等級3
言い換えますと、以上4つの条件の中で、最初の3つのうち1つでも欠けている家に吹き抜け空間を作ると、住み心地が悪い家になります。
そして、最初の3つが備わっている家であっても、耐震等級が3以外であれば地震に弱く、大地震による家の倒壊リスクを抱えています。
今後、30年以内に静岡県から愛知県、三重県、四国、九州にかけて、高い確率で南海トラフ巨大地震が発生すると言われています。
今年、何も無ければ来年以降、南海トラフ地震が発生する確立が高まっていきます。今、静岡県から愛知県、三重県、四国、九州の太平洋ベルト地帯に家を建てると、その住人は一生の中で高い確率で南海トラフ地震に見舞われると考えられます。
管理人が建築士の書籍から受けた印象として、吹き抜け空間のある家の設計は難易度が高くなる傾向があります。
もし、吹き抜けのある家に憧れを抱いているならば、実績とノウハウのある工務店に相談したいものです。
まとめ
吹き抜け空間のある家に入ると、視覚的な強いインパクトを受けます。人は広い室内空間に対して、とかく好印象を抱くものです。しかし、吹き抜け空間のある家は無視できないデメリットもあります。
もし、あなたが家づくりを検討しているのであれば、じっくりと吹き抜けのある家のメリットとデメリットをリサーチすることで、後悔のない理想の家に1歩、前進できるのではないでしょうか。
そして、今現在、吹き抜け空間のある家にお住いの方で「夏は暑い、冬は寒い」のであれば、暑さと寒さを軽減できる対策方法があります。
窓ガラスフィルムで暑さ、寒さ対策
日射熱の暑さ対策
吹き抜け空間の2Fに設置されている窓から室内に太陽光が入り込み、夏は暑い吹き抜け空間と化す場合、窓ガラスに「遮熱フィルム」あるいは「遮熱断熱フィルム」を施工して日射熱をカットする方法があります。
詳細は関連記事をご参照ください。
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コールドドラフト現象
冬季、吹き抜け空間の2Fに設置されている窓の断熱性能が低いと、外の冷気が窓とサッシを冷やし、冷やされた室内の空気が1Fに降りてきます。これは、コールドドラフト現象と呼ばれます。
コールドドラフト現象が発生する家では、いくらエアコン暖房で部屋を暖めても、1Fの足元が寒く感じます。
コールドドラフト対策
吹き抜け空間の1Fの寒さ対策として、2Fの窓ガラスに「遮熱断熱フィルム」を施工します。遮熱断熱フィルムの断熱効果により、コールドドラフト現象を抑制します。
遮熱断熱フィルムの中には、熱貫流率(U値)が「4.3W/m2・K」のフィルムがあります。
このタイプは夏の日射熱をカットし、冬の窓の断熱性能が約30%アップします。同時に目隠し効果もあります。
単板ガラス&アルミサッシ+遮熱断熱フィルム
「単板ガラス+アルミサッシ」の熱貫流率が「6.51W/m2・K」とし、これに「4.3W/m2・K」の遮熱断熱フィルムを貼り付けるとします。フィルムによる熱貫流率の変化を計算すると、以下のようになります。
(※)熱貫流率の値が小さいほど、断熱性能が高くなります。
6.51W/m2・K×4.3W/m2・K×1/6 ≒ 4.66W/m2・K
「単板ガラス+アルミサッシ」の熱貫流率が「6.51」から「4.66」へ下がります。
→この「4.66」は「ペアガラス+アルミサッシ」相当の断熱性能。
遮熱断熱フィルムにより、窓の断熱性能が約「30%」アップします。
ペアガラス&樹脂サッシ+遮熱断熱フィルム
YKK AP® APW330ペアガラスの熱貫流率が「1.31W/m2・K」とし、これに「4.3W/m2・K」の遮熱断熱フィルムを貼り付けるとします。フィルムによる熱貫流率の変化を計算すると、以下のようになります。
1.31W/m2・K×4.3W/m2・K×1/6 ≒ 0.93W/m2・K
APW330の熱貫流率が「1.31」から「0.93」へ下がります。
遮熱断熱フィルムにより、窓の断熱性能が約「30%」アップします。
詳細は関連記事をご参照ください。
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