建築物の工法として、大きく4つを挙げることができます。
・木造(在来工法、パネル工法)
・S造(軽量鉄骨造、重量鉄骨造)
・RC造(鉄筋コンクリート造)
・SRC造(鉄筋鉄骨コンクリート造)
これらの中で、マンションやビルはRC造やSRC造と言われる、鉄筋や鉄骨とコンクリートを組み合わせて建てられています。そして、ごく一部の住宅にRC造が見られます。
コンクリートがむき出しの打ち放し建築は、よく「コンクリート打ちっぱなし」と言われます。
コンクリート打ちっぱなしの建築物と言えば、世界的な建築家の巨匠、安藤忠雄氏を抜きにして語る事はできません。
建築業界の設計に携わっている方々の中で、安藤忠雄氏を知らない人はまずいないでしょう。
それほどまでに一つの時代を築き上げた安藤忠雄氏の建築物、作品と特徴、そして、コンクリート打ちっぱなしRC住宅の問題点と対策を深掘りしてみます。
コンクリートアートの世界
安藤忠雄 建築を語る
当ブログ管理人の自宅の本棚に安藤忠雄氏の本が何冊か鎮座しています。それらの書籍の中で、東京大学出版社から出版された「安藤忠雄 建築を語る」をピックアップしましょう。
手元の本によりますと、初版が1999年6月3日。第24刷が2009年10月16日。
「建築を語る」の著者略歴は以下のとおり。
著者:安藤忠雄(あんどう・ただお)
1941年:大阪に生まれる。独学で建築を学ぶ。
1969年:安藤忠雄建築研究所を設立。
1987年:イエール大学客員教授。
1988年:コロンビア大学客員教授。
1990年:ハーバード大学客員教授。
1997年:東京大学教授。
現在:東京大学名誉教授。
(出典)安藤忠雄 建築を語る
住吉の長屋
1976年、安藤忠雄氏が設計した大阪市住吉区の「住吉の長屋」は各分野で紹介されてきたコンクリート打ち放し作品の1つ。
長屋は関東から中部圏にかけては馴染みがない建築物ながら、長屋は京都と大阪では一般的な建物の形式。
一般的な長屋の間口は2間(けん)。1間は約1.8m。2間とは、約3.6m。
「うなぎの寝床」と揶揄されてきた細長い敷地に建物を建てる際、採光と通風が問題になります。そこで、古来より独特な設計が取り入られてきました。
長屋の採光と通風を確保するために、長屋に中庭が設置されてきました。住吉の長屋の間口は2間で奥行きは7間ほど。住吉の長屋も御多分に洩れず、中庭が設置されています。
住吉の長屋の設計思想
コンクリート打ちっぱなしの住吉の長屋の敷地面積は14坪ほど。建ぺい率は60%。「安藤忠雄 建築を語る」によりますと、住吉の長屋の設計思想は次のとおり。
・機能性や連続性に絶対的な価値を置かない
・抽象的な芸術に近いコンクリート建築
・中庭を作る(建物全体の1/3)
・小さな敷地に大きな家を建てる
・外壁に窓を作らない
・天井高は2.25m(7尺5寸)
住吉の長屋の大きな特徴、言い換えると奇天烈な設計とも言えるのは、1Fの中庭が居間とキッチンに挟まれていて、その距離は4.5m。普通車約1台分。
当然、中庭である以上、屋根は存在しません。中庭に光と風、雨が入り込んできます。
雨の日、住人は傘をさして居間とキッチンを往復しなければならないのです。1Fと2Fを繋ぐ階段と2Fの2部屋を繋ぐ渡り廊下に当然、屋根はありません。雨の日、住人は傘をさして階段や渡り廊下を使うのです。
夏季と冬季、住人はエアコン冷暖房が効いている部屋から中庭に出て、居間とキッチンを往復しなければならないのです。
住吉の長屋は設計上、建物が中庭でスパッと分断されている構造。言わば、細長い敷地の中にRC造の家が2軒あり、中庭空間がそれらを繋げているのです。
住吉の長屋はアート作品
人が生活する住宅という建築物は採光、通風、気密性、断熱性、耐震性、家事動線、収納などを考慮して設計されます。
住む人の体温調整に影響を与える温熱環境の6要素である気温(室温)、湿度、気流、放射、代謝量、着衣量が整っていると、快適な家に近づきます。
他方、建築家の安藤忠雄氏は彫刻家のリチャード・セラや建築家のフランク・ゲーリーの影響を受けているお方。
「うなぎの寝床の土地に抽象化した幾何学的な四角い箱を押し込み、その中で人が住むこともできます。」的な雰囲気が漂うのが住吉の長屋。
住吉の長屋のコンセプトの中に「機能性や連続性に絶対的な価値を置かない」という思想があるため、第三者は無言になります。住吉の長屋は芸術性を織り込んだアート建築なのです。
安藤忠雄氏の肩書は「建築家」。
ここで、建築業界の建築家と建築士、設計士は違いがあるため、混乱しないようにここで改めて押さえておきます。
建築家、建築士、設計士
建築業界には、建築家と設計士、設計士が存在します。
建築家
建築家は職業名であり、国家資格の有無は不問。建築家はジャーナリストのように自ら肩書を名乗ることができます。
一例として、建築家の黒川紀章氏、安藤忠雄氏、丹下健三氏は、歴史に残る作品を生み出してきた方々。
概して、建築家は建築物のデザインや芸術性を重んじる傾向があります。
建築物のデザインや芸術性を追求する建築家は得てして、建築物の機能性とメンテナンス性を最重要課題としない傾向があります。
建築士
建築士とは、一級建築士、二級建築士、木造建築士といった国家資格を取得した方を意味します。
建築士の資格を有している方でも、実務家としての能力はピンキリであり、それぞれ得意分野が異なります。ペーパードライバーのような方もいれば、実務経験を豊富に積んでいて、建築物に先鋭的な機能性を追求している方もいます。
設計士
設計士とは、間取りを考える人。
コンクリートの性質
コンクリート打ちっぱなしの建築物は鉄骨や鉄筋を組み上げ、それを囲うように合板を設置してコンクリートを流し込む工法。
これは、工場で鋳造と呼ばれるアルミ金属部品を製造する方法と似ています。建築物は現場施工のため、コンクリート打ちっぱなしの建物は大きな鋳物のようなもの。
よって、コンクリート造の建築物は木造や鉄骨造とは異なり、良くも悪くもコンクリートが持つ性質の影響を大きく受けます。
圧縮強度と引張強度
コンクリートは圧縮強度が強く、引張強度が弱い性質を持っています。逆に、鉄は引張強度が強く、圧縮強度が弱い性質を持っています。
圧縮強度 | 素材 | 引張強度 |
強い | コンクリート | 弱い |
弱い | 鉄 | 強い |
コンクリートと鉄を組み合わせると、お互いの弱点を補完する関係になります。よって、コンクリート建築はダムを除き、内部に鉄骨や鉄筋を使うことで大幅に強度を高めることができます。
蓄熱性
コンクリートは蓄熱性が高い素材。
コンクリートは一旦、太陽光の熱(赤外線)を吸収すると長時間、熱を持ち続けます。逆に、コンクリートが一旦、冷やされると長時間、その状態が続きます。
夏季、日射熱を吸収したコンクリートは高熱を帯びます。日没後も長時間、熱を持ち続けます。夏の日没後、室内の天井の温度が40℃前後を示すRC造住宅は珍しくありません。
そして、冬季の日没後、冷気によってコンクリートは冷やされます。日の出後、コンクリートは太陽光の熱を浴びながらも、なかなか熱を持ちにくい性質があります。
耐久性
RC造の法定耐用年数は47年と定められています。RC造やSRC造の耐久性はメンテナンス次第で50年以上、100年とも言われています。
RC造とSRC造
コンクリート建築は大きくRC造とSRC造。
RC造
鉄筋コンクリート造(Reinforced Concrete Construction)はReinforcedとConcreteの頭文字を取って「RC造」と呼ばれます。
RC造とは、柱と梁、床、壁が鉄筋とコンクリートで作られている建築物。
一般的なマンションはRC造で建てられています。
RC造の解体工事
建築物の解体工事費用は木造、S造(鉄骨造)、RC造、SRC造の順で高くなります。
特に、家々が密集している旗竿地の奥まった場所のRC造住宅を解体するとなると、一筋縄ではいかない難工事となります。RC造住宅を建てるならば、道路に面していて敷地に余裕があることが望まれます。
SRC造
鉄骨鉄筋コンクリート造(Steel Reinforced Concrete Construction)はSteel Reinforced Concreteの各頭文字を取って「SRC造」と呼ばれます。
SRC造とは、鉄骨の柱の周囲に鉄筋を組み上げて、コンクリートを流し込んだ建築物。
ビルや大型マンションはSRC造で建てられています。
RC造住宅の断熱
RC造で一般住宅を建てる場合、断熱の方法は内断熱と外断熱があります。
要素 | 外断熱 | 内断熱 |
冷房による 室温の低下 | 下がりやすい | 下がりにくい |
暖房による 室温の上昇 | 上がりやすい | 上がりにくい |
冷暖房による 室温の安定性 | 安定する | 安定しにくい |
結露 | 結露しにくい | 結露しやすい |
構造体の劣化 | 劣化しにくい | 劣化しやすい |
施工コスト | コスト高 | コスト安 |
内断熱
夏季
内断熱のRC住宅の場合、夏季の構造躯体(こうぞうくたい)温度は60℃前後まで上昇します。
日本の夏は猛暑日を記録する日が夏の風物詩と化し、地域によっては40℃超の外気温を記録します。
内断熱が構造躯体の熱をある程度は吸収するものの、それでも室内空間の暑さが気になるRC住宅が存在します。夏季、室内天井の温度が35~40℃というRC造住宅が普通に存在します。
この輻射熱が室内を熱するため、エアコンがフル稼働します。
冬季
そして冬季、内断熱のRC住宅の場合、構造躯体が冷気でキンキンに冷やされます。建物の外皮があたかも分厚い氷と化すため、内断熱の断熱効果には限界があります。よって、室内は底冷えします。
以上の理由があり、内断熱のRC住宅は夏は暑く、冬は寒くなりがちな傾向があります。
増してや、断熱材が使われていないコンクリート打ちっぱなしのRC住宅は、夏はとても暑く、冬はとても寒い空間と化します。同時に結露の問題を抱えています。
夏の暑さと冬の寒さは住人にとって肉体的、精神的負担が大きく、中には健康を害してしまう住人がいてもおかしくありません。
更に、夏と冬はエアコン冷房と暖房がほとんど24時間フル稼働するため、ランニングコストが高い住居と化します。
未だに、コンクリート打ち放しの内観と外観はオシャレでカッコいい的な声があるようです。しかし、人がコンクリート打ちっぱなしのRC住宅で生活するとなると、温熱環境としては問題があります。
当ブログの管理人は人が住む家は機能性を最優先させて、機能美がデザインの1つと考える派なのです。
外断熱
RC造の外側にロックウールなどの断熱材を10~20cm厚で施工すれば、建物の断熱性能は大幅に高まります。躯体が夏の赤外線と冬の冷気の影響を受けにくく、躯体の長寿命化にも貢献して一石二鳥。
外断熱のRC造住宅は、断熱性、耐震性、防音性、気密性、耐火性が高い建物。しかし、RC造は建築コストが上昇傾向にあります。
もし、坪単価100万円超の建築コストを許容できるお施主様であれば、外断熱のRC住宅は理想的な住宅の1つと言えます。
まとめ
安藤忠雄氏が今まで設計してきた、エッジの効いた直線と平面、曲面(多面体)が織りなすコンクリート建築物の外観と内観は独特な世界観があります。
安藤氏の作品は一般住宅というより、ビルや美術館、図書館のような公共施設、ホテル向きの建築物。
そして、俗にコンクリート打ちっぱなしと呼ばれるコンクリート打ち放しのRC造で断熱施工がなされていない一般住宅は、夏はとても暑く、冬はとても寒く、結露に悩まされる家と化します。
同じ工法のマンションでデザイナーズマンションとも呼ばれるRC造も、住み心地は似たようなもので温熱環境に問題を抱えています。
「コンクリート打ちっ放し 暑い 寒い」といった検索キーワードでググると、様々な経験談の記事がヒットします。
もし、RC造で住宅を建てるのであれば、外断熱で温熱環境を考えた設計が人に優しく、快適で健康的な生活に繋がります。同時に家のランニングコストを抑えることができます。
そして、コンクリート打ちっぱなしや内断熱のRC造住宅にお住まいの方で、夏の暑さと冬の寒さが耐え難いと感じているのであれば、外断熱リフォームで温熱環境が大幅に改善できます。
同時に「ペアガラス+樹脂サッシ」へリフォームすることで、窓の断熱性能を大幅に高めることができます。
窓ガラスの遮熱、断熱対策
建築物の外皮を構成する壁、屋根、床の中で、最も断熱性能が低い場所は「窓」。
冬季、冷え切った外気が窓とサッシを冷やし、建物の室温を下げてしまいます。同時に、暖房器具で暖められた室内の熱(遠赤外線)が窓から外へ流出します。
そして夏季、日射熱が窓から室内に流入し、室温を上げてしまいます。
そこで、窓の性能を高めることは温熱環境に対してプラスに作用し、1年を通して快適な室内環境を整えることができます。
具体的には、窓ガラスに「遮熱断熱フィルム」を施工することで、夏の暑さと冬の寒さを和らげることができます。
当店が扱うプロ用のガラスフィルムは理論的な製品で、各フィルム毎に「遮蔽係数」「可視光線透過率」「熱貫流率」などの値が与えられています。
ガラスフィルムの各スペックと窓ガラスを組み合わせることで、より快適で安全、安心な空間を整えることができます。
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