実は、家づくりのプロである建築家や建築士の中で、建設予定地を中心とした隣家の形状と位置関係、太陽光による日射と影の影響を正確に読み取ってシミュレーションし、家を設計している方は多くはありません。
多くの住宅メーカーや工務店は家を設計して住宅設備を組み込み、家を建てることに集中し、周囲の隣家との関係と太陽高度、影を熟考しているケースは少ないのです。
信じられないかもしれませんけど、これは事実です。
これが理由で、建物が完成してお施主様が入居すると、1階リビングの日当たりが悪い、朝日や西日が眩しく暑いなどの図面では見えてこなかった現実に直面することがあります。
では、建築業界の闇の扉を開けてみましょう。
Open the door.
地球の地軸は約23.4度、傾ている
太陽は恒星。
地球は太陽の周りを回っている惑星。地球は1年かけて太陽の周りを1周します。これを公転と言います。
地球の地軸は約23.4度傾いています。
よって、北半球と南半球は真逆の季節を迎えます。日本が夏ならば、オーストラリアは冬。
地軸が約23.4度、傾ているからこそ、日本における太陽高度は季節で大きく変化します。
東京の夏至(げし)(6/22頃)の太陽高度の最大は「約78度」。
そして、冬至(とうじ)(12/22頃)の太陽高度の最大は「約31度」。
その差は、なんと「47度!」。
日本の太陽高度は夏至と冬至で大きな違いがあることが再確認できます。
夏至の日は梅雨の時期。よって、夏至の日は曇り空が多いものの、あたかも頭の真上から太陽光が降り注ぎます。そして、冬至の日は太陽の位置が低くなります。
日本全国の全ての建築物は季節毎の太陽高度の影響を受けている以上、それを計算に入れて設計した家は快適な暮らしに繋がります。
しかし、そうではない現実があります。
家と太陽光、隣家との関係
“Film Work”さんが住宅地のAという土地を購入し、家づくりを検討しているとしましょう。
・Aの土地は北側道路に面した土地。
・Aの土地に2階建て住宅と駐車場2台分のスペースを希望。
・5件の隣家は全て2階建て。
・オレンジ曲線は太陽の動き。
問題のある設計1
・家の北側に余裕のある駐車スペースを確保。縦列でもバック駐車もOK。
しかし、次の問題があります。
・1Fリビングの日当たりが悪い。
・1Fリビング東側の窓から朝日が入る。
・1Fリビング西側の窓の設置場所と面積によっては、西日が眩しく暑い。
問題のある設計2
・家の北側に2台分の駐車場を確保。
しかし、次の問題があります。
・1Fリビングの日当たりが悪い。
・1Fリビング東側の窓から朝日が入る。
・1Fリビング西側の窓の設置場所と面積によっては、西日が眩しく暑い。
・L字型の家は断熱性能の面で不利。
・L字型の家は耐震性能で不利。
家、そして地球上の全ての建築物は宇宙の影響を受け続ける
太陽の寿命は約100億年。太陽が誕生したのは約50億年もの昔。よって計算上、あと太陽は50億年間、核融合反応を続けて地球を照らし続けるでしょう。
このブログをお読みの方と子供、孫まで全員、太陽の寿命を心配する必要はありません。
太陽は常に地球の半分を照らし、地球上に無料で明るさ(可視光線)と熱(赤外線)を与えてくれます。太陽無くして、人間を含めた動植物の生活は成り立たちません。
もちろん、太陽光は紫外線を含んでいます。
人間にとって紫外線(紫外線A波、紫外線B波)は有害。ただ、紫外線には殺菌効果があります。だからこそ、地球上の様々な生態系がバランスしているのかもしれません。
紫外線を含めて、太陽光は宇宙の恵み。
人が建築物の中で生活する以上、この世の建築物は全て宇宙の恵みである太陽光の影響をいい意味でも、そうではない意味でも受けています。
朝の来ない夜は無い
「朝の来ない夜は無い」という言葉はいくつかの意味を含んでいます。
それらの中で「陽はまた昇る」と解釈しましょう。
日が昇ると、朝日が東側の窓から入り込み、徐々に南側の窓を照らし、やがて西側の窓を照らします。季節によっては、西日が北側の窓を照らします。
太陽が存在する限り、このサイクルは永続的に毎日、繰り返されます。
建築士でしたら、3年後のX月Y日、正午の太陽高度がどの程度なのか計算できます。太陽の動きは天気や風速、風向きとは異なり、明確に読めるのです。
太陽の存在を無視して家を設計したら、住み心地が悪くなります。
太陽は毎日、私たちに無料で明るさと熱を与えてくれる以上、それらを上手に家に取り入れることが大切。
そして、光が当たれば影ができます。地球上の建物には必ず影ができるため、地球上の建物は他の建物の影の影響を受けるのです。
ということは、影の存在を無視して家を設計したら、住み心地が悪くなります。
太陽による「光と影」の影響を熟考して設計した家は、いい家の条件の1つなのです。
ZEH/ゼッチの家
住宅業界以外の人にとって、ZEH(ゼッチ)という言葉は耳慣れないと思います。
このZEH(ゼッチ)とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/Net Zero Energy Houseの略。
ZEHは住宅の断熱性能を向上させ、太陽光発電システムでエネルギーを生み出し、年間の一次消費エネルギー量(空調、給湯、照明、換気)の収支ゼロを目指した住宅。
ZEH住宅のカタログには、次の言葉が出てくることがあります。
UA値
UA値(外皮平均熱貫流率)とは、家の室内から床、壁、屋根、開口部(窓)を通して室外へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値。単位は「W/m2・K」。
UA値の数値が小さいほど室内の熱が室外へ逃げにくく、外の気温が室内に伝わりにくくなります。
UA値 = 外皮総熱損失量/総外皮表面積
UA値の計算方法
新築後、30年、40年もの期間、家で生活する長期的な観点からすると、UA値0.46W/m2・K以下が理想的という考えもあります。
家の外皮全体を魔法瓶と考えると、断熱性能が高い魔法瓶ほど熱湯が冷めにくくなります。そして、氷入りの冷水の温度を保ちやすくなります。
C値
C値とは、隙間相当面積。建物全体の隙間面積を延床面積で割った値で単位はcm2/m2。
これは、建物の機密性能を示し、値が小さいほど家の隙間が少ない、即ち、気密性が高いという意味になります。
2021年現在、ハウスメーカーと工務店のオフィシャルサイトやパンフレットの中に「UA値」と「C値」が記載されているケースは多くはありません。
しかし、工務店の中には、少数精鋭の建築士の方々が高性能な木造住宅を設計、施工しています。そのような住宅の性能は突出していて、その性能は大手ハウスメーカーが建てる家を凌いでいます。
耐震等級
耐震基準は必要最低限の耐震性能。
・耐震等級1:耐震基準強度×1倍
・耐震等級2:耐震基準強度×1.25倍
・耐震等級3:耐震基準強度×1.5倍
耐震等級1は建築基準法の最低限の性能を意味します。
家の性能を表すスペックとして、耐震等級の数字は家の耐震性を判断できるデータです。
家の性能は判断しにくい
自動車のカタログには、必ず次のスペックが表示されています。
【全長、全幅、全高】単位はmm
【WLTCモード燃費(国土交通省審査値)】単位はkm/l
【エンジン排気量】単位はL
【最高出力】単位はkW(PS)/rpm
【最大トルク】単位はN・m(kgf・m)/rpm
【車重】単位はkg
燃費表示がJC08からWLTCへ変更され、より実燃費に近い値が表示されるようになりました。車体寸法、エンジン排気量、燃費、最高出力、最大トルク、車重などを見れば、大雑把な車の性能をイメージできます。
ところが、家の性能を判断できるスペックは少なく、建築業界のオフィシャルサイトにUA値、C値、耐震等級が掲載されていないケースが少なくないのです。
自動車業界からすれば、住宅業界のおおらかさに驚きかもしれません。
住宅業界は現場で地盤調査から始まり、各分野の職人さんが集まり、基礎工事、建物上棟、内部造作工事へと進んでいきます。建築現場ではアナログな手仕事が多く、現場施工でどうしても誤差が生じることがあります。
セキスイハイムのように、工場でユニットを作る工法は別として、現場施工の建築物は工場で作る工業製品と比べて、高い精度を出すのが容易ではありません。
そのような背景があり、住宅の性能を示すスペックは他の工業製品と比べてゆるいところがあります。
家の住宅設備は2番目
ハウスメーカーや工務店のオフィシャルサイトやパンフレット、住宅雑誌にキッチンやバスルーム、トイレ、太陽光発電システムなどの住宅設備の写真が掲載されているのが普通です。
家づくりを夢見ている子育て世代は、カタログに掲載されている住宅設備に目を奪われがちかもしれません。
しかし、それらは自動車の装備類に相当するもの。
実は、先ほど出てきたお施主様である”Film Work”さんがAという土地に家を建てる上で、キッチンやバスルーム、トイレ、食器洗い乾燥機、電動シャッターなどの住宅設備は2番目の問題です。
これは、住宅設備はどうでもいいという意味ではありません。住宅設備は金額の面は置いておいて、自由に選択できるのです。
オプションで豪華なキッチンにお金をかけるよりも、一軒の家の窓に30万、40万円プラスして高性能タイプを選んだ方が断然、快適で光熱費を含めてお徳なのです。
Aという敷地に家を建てる上で、快適で住み心地がいい家の必須条件は多々あるものの、以下の条件が重要ポイントです。
・季節による太陽高度を考慮して、春夏秋冬、太陽光がどのように家の外壁と窓に当たるのか。
・5件の隣家の影が1年を通して、どのように”Film Work”さんの家に影響を与えるのか。
・5件の隣家の影が時間によって、どのように”Film Work”さんの家に影響を与えるのか。
・朝日がどのように家の外壁と窓に当たるのか。
・西日がどのように家の外壁と窓に当たるのか。
・屋根の軒と庇が設置されるのか。
・性能が高い高気密高断熱住宅であるのか。
・高性能樹脂サッシが採用されているか。
夏、暑い家の問題点
上の写真の家は、
・黒い外壁
・屋根に軒(のき)が無い
・窓の上に庇(ひさし)が無い
この家が高気密高断熱住宅であっても、夏は眩しく暑く、エアコンがフル稼働して光熱費が高くなる可能性が考えられます。
建築基準法を満たし、建築確認申請が通っている建物であれば合法です。ただ、合法の家であっても、快適な家かどうかは別の問題。
近年、軒と庇が無い家を多く見かけます。これは、住宅業界のトレンド。ビルダーとしては、売れる家がいい家なのは世の常。
しかし、家のプロではないお施主様は、間違ったトレンドを取り入れて建てられた家に30年、40年以上も住み続けます。
念願のマイホームが完成し、お施主様は夢を膨らませて入居したものの、想定外の問題点があれこれと出てきても、もう後戻りはできません。
そこで、朝日や西日が眩しい、夏暑いという問題を解決する方法として、窓にガラスフィルムを貼ることで眩しさを和らげて太陽の日射熱を抑制することができます。
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夏の暑さの約70%は窓が原因
遮熱フィルムで暑さ対策
太陽光の日射熱が窓ガラスを通して室内に流入します。
日射熱が部屋を暖めるため、エアコンの負荷が高まります。これにより、エアコンの消費電力が高い状態が続き、電気代を押し上げます。
そこで対策として、窓ガラスに「遮熱フィルム」を施工します。ガラスフィルムの遮熱効果によりエアコンの負荷が低減され、電気代の節約に繋がります。
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